ホーム映画制作講座小道具物語り > 200円のロマネ・コンティ

200円のロマネ・コンティ

10年くらい前になるでしょうか。ひょんなことから、大きな舞台の手伝いを頼まれました。
公演の際は、テレビカメラも入るというのです。

テレビカメラと聞いて、小道具の僕は興奮しましたね。
もちろん、テレビカメラが入ろうと入るまいと、仕事への熱意は変わりません。
ただ、舞台における小道具の哀しさというのを何度も味わってきている僕にとって、カメラによって細部が映される、というのは大きな出来事だったのです。
この舞台は4つの場面からなっていて、それぞれについて様々な小道具を作りました。
その中で、ロマネ・コンティが登場するシーンがありました。
主人公が、とっておきの記念日に、ものすごい高級なレストランで超高級なロマネ・コンティを注文する。

場面が目まぐるしく変わる舞台上では、その高級感を、ソファやテーブル、そしてそのロマネ・コンティで表現しようとしました。
調度品に関しては、大道具レンタル屋さんで間に合います。その時の演出家はそこで困りました。
ロマネ・コンティなんて何十万円もするもの。
空き瓶だけ用意する、といってもそう簡単にはいきません。

ここで僕の登場となりました。
ワインの本を借りてきて、まずはロマネ・コンティについて勉強です。
今なら、ネットで検索すればすぐなんですが、当時はそんなものは僕の周りにはありません。
写真を見ました。
瓶にラベルが貼るだけだな。
何とかなりそうです。
当時はPCもプリンターもありませんから、ラベルはもちろん、手書きです。
ラベルは2種類。
瓶の首の部分に小さなエンブレムのようなやつと、瓶のお腹の部分の大きなものです。

本物と同じような色の瓶を探してきて、ラベルの大きさも概算し、紙から切り出しました。
ちなみに、もちろん紙の色もそして質感も同じようなものを、大型文房具店で買ってきました。
紙代、200円なり。
ワインの本を見ながらラベルの文字もひとつひとつ真似て書いて行きます。
フランス語なのか、さっぱり分かりませんでしたが、それでも絵を描くような気分です。

最後に大きく、ロマネ・コンティと読めるくねくねしたロゴみたいなものを描き、完成しました。
紙代は安かったんですが、作業時間はちょっとしたものでした。

さて、僕はそれを持って稽古場に出かけました。みんなの反応が楽しみです。
が、役者さん達は皆、演技に夢中です。皆さん、CMなどで活躍されている方々。やはり熱心です。
唯一、普段笑いもしない演出家の方が、ロマネ・コンティを見てニヤリ、としてくれたのがうれしかったですね。

稽古の最中、その瓶に赤い水を入れて、雰囲気を出そうということになりました。
僕はわが子が使われるのをドキドキしながら見つめました。
役者さんが瓶を持ち上げ、高級なレストランで高級なワインをドキドキしながら注ぐ演技をしています。
瓶から赤いワインがグラスに注がれ、僕もつい高級な気分にひたったその時!

つぎ終わって元に戻そうとした瓶の口から、赤い水がそのまま瓶をつたって垂れていき、苦心の作のラベルに…
しっかりとラベルは赤く染まってしまいました。
あとから確認すると、細かい文字まで水分できっちりにじんでました。
ラベルは赤くなりましたが、僕は青くなったのは言うまでもありません。

その夜、僕は憂鬱な気分で作り直しをし、次の日演出家の方に、本番までこれは使わないで下さい、とそれをお渡ししました。


壊れものの小道具は複数用意しなくちゃいけません。

小道具マンのがんばりどころですね。


© Since 2001 映画工房カルフのように All Rights Reserved.
ホーム映画制作講座小道具物語り > 200円のロマネ・コンティ