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舞台では火が使えない
小道具さんというのは、いつも常に必要なものではないのですが、逆に突然呼ばれることもあります。

ある時、舞台で使う小物を作ってくれと頼まれました。
いつものことですし、僕は何でも作れる!と自負してますから、話が来た時点でオッケーと返事をします。
やがて主宰の人とお会いして詳しい話を聞いてみると…

ヨーロッパの時代劇みたいな話で、夜な夜なお城を歩き回るお姫さまのシーンで使う小道具が必要なんだと言います。
舞台をまっ暗にして、そこをろうそくの灯りを持って役者が歩く。
その、ろうそくを手に持つための燭台。これがその時の依頼内容でした。

なあーんだ、と思った途端、主宰者は言いました。
それでね、
舞台は火が使えないから、本物のろうそくは使えない。
だから、そこのところを何とか…

こういう、どうしたらいいの?みたいな依頼は、ほんと燃えます。
小道具さんというのは、ただモノを作るだけじゃなくて、その行程を自分で考え出すことに楽しみを見つける人種です。

まず僕は図書館に行き、中世ヨーロッパの燭台を探し出してノートにいろんなアングルをスケッチしました。
なるほどね、こういうものなんだなあ。
で、火が使えないということは、自然と電池式になります。

次に東急ハンズに行きます。
小道具さんにとっては、聖地ですね。
大小様々な電球を売ってるコーナーに行くと、ちょうどいい『炎がチラチラ燃えてるように見える電球』がありました。

今回はロウが垂れてる状態をリアルに作りたいな。溶けるプラスチックを買ってきてそれを垂らして作ってみよう。
そんなことを考えました。
手でにぎるグリップは針金を使います。
本物の燭台は、手に握る部分やロウを受ける受け皿なんかがものすごく精密に細工が施されたりしているのですが、今回はそこまで凝らなくてもいいかなと判断しました。

凝ったって、あんまり見てくれないですから。


制作自体は、結構簡単でした。
ちょっと気になったのは、強度です。
ろうそくの中には電池が埋まってますから、空洞です。

舞台上で、その小道具がどのような扱いを受けるかも、しっかりと聞いておかなければなりません。

今回はそんなに手荒な扱いは受けなそうだったので、強度にはそんなにこだわる必要はありませんでした。
ロウの受け皿の部分は、家にあったアルミ缶のふたを逆さにして使いました。
そこにグリップを付け、小さなスイッチを仕込みます。
これで、片手で握り、そのまま親指でスイッチのオンオフが自由自在です。

舞台当日。
舞台が暗くなり、役者が燭台を持って現れました。
僕は客席でじっと役者の指先に注目してました。
電池が切れないかどうかが気になって仕方ありませんでしたが、どうやら大丈夫だったようです。
やがて役者がフッと息を吹き掛け、親指を話して火が消えました。

舞台はまだまだ続きますが、僕は小さく、「やった」とつぶやきました。

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