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友人を橋から突き落とす方法

何やら物騒なタイトルなんですが、これ、本気で考えてたことがあるんです。

劇団とかから頼まれたものを作るだけで満足できなくなり、自分で人を集めて映画を作り始めた頃の話です。
スピルバーグの『激突!』という映画がありますよね。主人公が意味もなくタンクローリーに追いかけられるってやつ。
あの、人間バージョンを作ることにしたんです。

主人公の女の子が学校か何かの帰りに、変な男にひたすら追い回される。
ストーリーはそれだけです。
とにかく不穏な雰囲気の作品を作ろうとしてました。

そのため、追いかけられる時に周りに人がいてはいけません。
住宅地で撮影したんですが、日中はどうしても人がいる。
そこでスタッフ役者みんなでうちに泊まり、朝4時とかに起きて撮影しました。
それでも犬の散歩のおじいさんおばあさんが遠くを歩いてたりして、緊張感をそいでそいで大変でした。


さて、勘のいい方はもうお気付きでしょうか。
『激突!』の人間バージョンで、このエッセイのタイトル。
この作品のラストは、追いかける男が突き落とされて終わるんです。
もちろん、映画のように崖から、というわけにもいきませんから、橋の上から落とすことにしました。

とはいえ、橋の上から落とすだけでも十分無茶です。
下にマットを敷くのをまず考えました。
でもですね、実際にその橋に行って上から見下ろしたらすぐに考えを変えました。
無理です。
下がクッションだったとしても、飛び下りるのは嫌です。
自分ができないことを人にやらせたらいけません。

そしてすぐに考えたのが、まあ、僕は小道具マンなわけで。
友人そっくりの人形を作り、橋から突き落とす、という方法でした。

そんな方針で始めたため、ストーカー役の友人にはマスクと手袋、帽子を装着し、さらにジャケットのフードを深くかぶる、という格好をしてもらいました。
これだけ分かりやすければ、人形作りも楽です。

人形づくり、まずは友人の身体の寸法を図ることから始めました。
この時、友人の背が非常に高いことを恨みました。
材料費がその分、多くかかっちゃいますから。
それはともかく、寸法を目盛り、日曜大工店に買い出しです。
身体の部品をつなぐ太い針金を大量に。
うでや足は木の棒を組み合わせて作っていきます。

家に帰り、みんなで作業しました。
頭は新聞紙を丸めてちょうどいい大きさにし、それをセロハンテープでぐるぐるまきにします。
しかしこの時、人間の頭って大きいんだなと感じましたよ。いくら新聞紙を使ってもちょうどいい大きさにならないんです。
腕や足は関節ごとで区切り、木の棒を針金でぐるぐる巻にして作りました。
そしてそれらをまた針金でつなげていきます。
ここで、いくつか大変だったのは頭と同じく、腕や足って、意外と大きいんだなってことです。
木の棒を段ボールでぐるぐる巻にしてとにかく太くしていくんですが、本物の足や腕くらいにしようとするとすごい量の段ボールが必要になってきます。

肩と身体を、十字架のように打ち付けた木の板で作り、とにかく全身つなぎ合わせました。
人の形にして床に寝かせます。
手のひらは、針金をくねくね曲げて指の形にして作りました。
持ち上げると、ぐったりしてます。
いや、関節と言う関節が、とんでもない方向にまがってしまう!!
でも、そこまでの作業ですっかりくたびれてしまった僕達は、まあ何とななるだろう、と話し合い、そこで完成としました。

さて橋のラストシーン撮影当日。
土曜日のお昼だったと思いますが、僕らはその人形を解体して現場に運びました。
そこでペンチを使って組み立て、それにストーカー役の友人が着ていた服をそっくり着せました。
地面に寝かせている限り、そこそこリアルです。

ちょっと体型がガリガリですが。

いよいよ撮影です。
やり直しがきかないであろうため、慎重に準備を進めます。
カメラをセットしました。
主人公の女の子が人形を両手で持ち、「スタート!」のかけ声でそれを橋の上から放り投げる手はずになっています。
さて、撮影を始めようとしたら…

近くの小学校の下校時間に重なってしまい、小学生が何十人もやってきてしまいました。

「何だあれ!」
「何か撮ってるよ」
「人形を落とすんだ!」
「バレバレじゃん…」

う、うるせー!!
僕は怒りととまどいと恥ずかしさを必死に堪えながら、「スタート!」と叫びました。
以下、そのシーンを写真で並べます。

橋のらんかんに突き落としてもしがみつき、落ちないストーカー。
女の子が石で頭を殴り…
突き落とします。
ここから人形の映像です。
あ、いい感じに落ちて…
あら、関節が変な方向に曲がり…
くねくねの軟体人間のような格好で落下、
ありえない格好のまま地面に激突しました。

落下した後、なんだかいやーな空気が辺りに流れ、小学生たちも「なんだあ…」みたいな声を上げながら去って行きました…
僕らは静かにぐにゃぐにゃになった人形を拾って、帰りました。

泥だらけだったので家に入れる気になれず、しばらくアパートの玄関の前に放置してましたら、次の日隣のおじいさんに叱られました。
「ゴミはちゃんと片付けなさい」
と。

『ゴミ』

小道具とは、哀しいものだとつくづく思うのです…


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