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STEP6:楽しんでるのは俺一人!?

一週間後。
集まった面子は前回より一人減っていた。

そして、ストーリーを持ってきたのは俺を含めて3人だけだった。
俺は自分の考えた企画についてしゃべった。とにかくしゃべった。しゃべっているうちに、聞いている女の子たちが徐々に興味を示し出しているのをひしひしと感じた。

俺の中に、完全に火がついていた。

作る映画が決まった。
俺のアイディアは2本とも通した。

女の子が味方についたのは大きかった。演劇仲間に知り合いは多いものの、それでも女性に声をかけまくれる程、俺は気が大きくない。
女性の仲間を誘うのは、その女の子たちに頼んだ。

俺は自分の企画を文字にすることにした。脚本がどんなものかも分かっておらず、ほとんど小説のようにだらだらと書いた。
同時に、イメージイラストもマンガみたいに描いた。それが絵コンテというものだと、知っていたのかさえも定かでない。
完全に俺がその場を仕切っていた。

リーダーシップを発揮した、というより、「作りたい作りたい作りたい」って気持ちをぶつけていたのだ。

夏真っ盛りのある日、スタッフの家で撮影が行われ、一日で終わらせた。
終わった後、撮影したビデオをそのまま鑑賞した。

バイトがあるというメンバーが去り、言い出しっぺの彼も去り、女の子たちも去り、俺は残ったやつと一緒に居酒屋に入った。
満足感というより、ただ終わったーという虚脱感だけが残った。

そのまま、次の映画の制作に入った。

企画会議をした時に女の子が持ってきたストーリーだった。
ファンタジックなストーリーで、映像化は無理だと思った俺は、紙芝居みたいなアニメにしようよ、と言った。

家で俺は一人せっせと絵を描き、発案者の女の子は声を吹き込む人を探した。
全ての作業が終わり、また俺たちはあっさりと解散した。

何なんだろう、この虚しさは、と思った。

映画制作は、誰かに見せることでその行為が完成するということに、まだ気付いていなかった。

続けて3本目の制作に入る。
これはホラーだった。俺の部屋にみんなで泊まり込んでひと晩で撮った。
そうやって映画はあっと言う間に3本、完成した。

数年前に一人で映画を作っていた時、一人でできる限界を感じて止めたいた。
そして今、俺には人脈が出来ていた。声をかければ、問題なく人は集まる。
ただ、気を使い過ぎる性格のせいか、撮影の後はいつもどっと疲れていた。
一人の時とは違い、何人もの人間の予定調整や時間合わせに追われた。

そして、楽しんでいるのは俺一人なんじゃないかという思いに、全身捕われていた。

一人の時は、作ることが楽しかった。そして完成した時点で満足していた。
今度は違う。

自分が作りたいものに多くの人を巻き込んでおいて、はいありがとう、じゃ済まされない。

今の自分に何が足りないのかも、何をすればいいのかも分からない。
一度悩み始めるとうじうじしてしまう悪いところが俺にはある。
分からない分からない分からない…

携帯が鳴った。

映画を手伝ってくれた女の子からだった。
「今度うちの大学で学園祭があるんだけど、私の友達が映画上映やるんだよ。で、そこでオリの映画、流してもいい?」
 俺は途端に興奮した。
「いいよもちろん、てゆうより、まったくもってよろしくお願いします!」

学園祭での上映会のプログラムは、俺の映画2本と、別の女子大生監督のもの1本の、計3本だった。

俺は3本作ったのだが2本だけ出品した。最初の作品はあまりにも稚拙でどうしても人に見せる気にはなれなかったのだ。
学園祭の数日前、主催者に頼んで、女子大生監督を紹介してもらった。
自分以外の映画を作っている人間に、どうしても会ってみたかった。

渋谷のハチ公前で、俺はその女子大生監督と会った。
そして、気付けばお互いに作りたい作品のアイディアをしゃべりまくっていた。

「映画作ってる人に、初めて会えたよ!」と俺は興奮気味に言った。
「私も監督やってる人に初めて会った!」と彼女も声を弾ませて言った。

 予定があるからごめんなさい、と慌ただしく彼女が去っていった後も、俺は感動していた。

いるんだ。

映画を作りたい人って、いるんだ。
この世の中に、探せばいるんだ!


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