STEP02:きっかけを探す日々
さりげなーく帰ろうかと、雑誌をラックに戻そうとした瞬間、部屋の壁にあったドアが勢いよく開いた。
部屋は、隣の部屋とそのドアでつながっていたのだ。
「ごめんなさいねー!!」
元気のいい女性が入ってきて、部屋の空気は一変した。
女性はすでにそこにいた2人とは顔なじみの様で、彼らも表情を崩して頭を下げた。
彼女は彼らに軽く挨拶をした後俺のところに来た。
「あ、こんばんはー!初めまして…ですよね!?」
30歳くらいか。その笑顔に、俺はホッとした。彼女は名刺を差し出した。
「中村と言います。よろしくね。」
中村里美、という名前の横に『編集長』と書かれている。俺は、へえー、と思った。
編集長とはいろいろ話した。
ここを知ったきっかけ。大学生であること。絵を描くのが好きなこと・・・。
彼女は聞き上手だった。そして相手を安心させる何かを持っていた。
気付くと、ガラガラだった部屋は人でいっぱいになっていた。手に手にお菓子やジュースを持って盛り上がっている。
10時からバイトだったので、9時にそこを出た。
なんだかうきうきしていた。来週また来よう、と思った。
今考えるに、あの頃の俺は『自分を受け入れてくれる場所』を探していた気がする。
大学にうまく馴染めなかった俺の居場所を。
映画を作りたい気持ちは何となくあったものの、俺の人生はそれどころじゃなかった。
まず友達を見つけたい。そして・・・これは大事だ、彼女も作りたい。
俺は毎週木曜日、新宿のそのパーティーに通い出した。
その頃、コンビニの夜間のバイトをしていた。ここでも俺は友達を作りたかったが、判で押した様に、4人いたバイトの同僚は、競馬がすべてという人たちだった。
競馬に興味ない人間が存在するのが理解できない、それ以外に何が楽しくて生きていくんだ?という反応にたじろいだ。
そこに、一人の男が入ってきた。
声優を目指し、専門学校に通っていると言う。お世辞にもモノになりそうな声ではなかったが、俺と同じ匂いがした。
すぐに俺は彼と話すようになり、あれやこれやと夢を語りあった。
でも当時の俺の経歴と言えば、その1年前に数本の映画を作ったことがある、という程度。彼にとっては、それほど熱意がある人間には見えなかったかもしれない。
何とかつなぎとめたい出会いだったが、俺には彼を口説くものが何もなかった。
やがて彼は数カ月でバイトを辞め、その後は会うことはなかった。
ある休日の夕方、その頃持ち始めた携帯電話が震えた。中村編集長からだった。
「ね!六本木でうち主催のパーティーやってるんだけど、遊びに来ない?」
何のパーティーかも聞かず、行きます、と答えた。
パーティーに興味があったわけじゃない。編集長が言った言葉がひっかかったのだ。
彼女はこう言った。
「オリちゃん(俺のニックネーム)のね、得意なイラストをまとめて持ってきてよ。」
俺はすぐに家のなかにある自分のイラストをかき集めた。
何か面白そうな予感がした。
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STEP03:人脈は、人脈のある人と知り合うことで広がる
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