STEP11:グループに息を吹き込むということ
朝、出勤前に喫茶店にこもり、6mm幅線のノートを広げる。
濃い青のペンを走らせる。
自分に都合のいい人間だけ集めたら、うまくいくのか?
一人一人手取り足取り、やることを教えないと動かないのか。
それはそれで、あんまりみんな楽しくないんじゃないだろうか。
俺がいなくてもみんなから動くような団体はどうやったら作れるのか。
俺は、会った人は確実に口説く自信がある。
カルフのことを、作りたい映画のことを、熱っぽく語れる自信がある。
でも何かが足らない。
何が足らない?
俺に優れたリーダーシップがあるなら、とっくの昔に発揮できているはずだ。
俺が中村編集長のところに頼まれもしないのに通っていた時、なぜ行っていたのかなと考えた。
仕事があったから?・・・いや、他にだってある。
楽しかったから?・・・いや、つらいこともあったぞ。
編集長のことを慕ってたから?・・・まあ、それもあるけど、それだけじゃない。
自分のやっていたことを、喜んでくれる人がいたから?
ちょっと鳥肌が立った。これだ、きっと。
曖昧な精神論みたいになったけれど、考えてみると人を動かすってのは人の意識を動かすことなわけで、精神論には違いない。
ただ楽しさを求めるだけなら、わざわざ映画なんて作らなくてもいい。集まって、飲みに行けばいい。
そうじゃない、それだけじゃないものを、カルフにはつけていきたい。
俺のやりたいことは?
俺はどうなればうれしい?
参加してくれる人は何を求めてる?
彼らは、どうなればうれしい?
役者はどう?
スタッフはどう?
そして、お客さんはどう?
・・・俺はノートに質問を書き連ね、そこに自分なりの答えを書き込んでいった。
ここから先は、あえて書かない。
それぞれ団体を作りたい人によって主旨は、目的は違うだろうから。
それに、その俺の考え方が正しい唯一の答えだとも思えないから。
何より、まだまだ答えはまとまっていないから。
でも俺は今、カルフがすごく心地いい。
幸い多くの人も集まってくれ、居ついてくれてる人は同じように心地よく思ってくれてるんだろう。
でも、全部が全部俺のおかげじゃない。
かと言って今までの仲間を褒めちぎるのも照れくさいのでやらない。
それにそんなことしたら、新たに入ってくる人は白けちゃう。
脚本を書いたことのある人は分かるかもしれないが、ある時ふと、登場人物たちに【生】が宿る瞬間がある。
一旦【生】が宿れば、物語は勝手に進んで行く。
俺は今、カルフにそれを感じてる。
今まで、自分の予感ってものを大事にしてきた。だからこの感覚も信じたい。
ぐらり。
カルフはようやく動き出したのかもしれない。
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