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第七話:ドラマを作る(2)

映画を作りたいという気持ちはますます大きくなり、同時に実際にできることの少なさにどんどん気付いていき、やがて俺は映画作りを止めてしまった。
 
ここから数年間、映画から離れた人生を送ってしまうので内容は割愛させていただくが、ポイントは…

  • 国内外を旅し、表現したい気持ちがどんどん大きくなっていった
  • 対人恐怖症気味だったのをある程度克服し、あちこちに顔を出して大勢の仲間を見つけた

…というところにある。 これらはその後の映画制作人生に大きく影響するのである。

 で、俺が映画を作る人間だということを知った仲間が、一緒に映画を作らないか、という誘いを俺にしてきたところから話は復活する。
なんだ、こいつらも映画作りに興味あるのか。 来なさい来なさい、俺のところに来なさい。
なんたって俺は過去に8本も監督してきたんだからね。
全部俺が監督してきたんだからね。全部脚本は俺なんだからね。
ついでに言うと、全部見てるのはこの世で俺だけなんだからね(涙)。

  …とまあ、彼らにしてみればあくまで「一緒にやらないか=彼らに参加しないか」という誘いだったのに、俺という人間はどんどん自分にいい方に解釈し、俺が脚本を書いて俺が監督をする映画に彼らが参加する、という方向性に持っていってしまう。

映画作り、これすなわち闘い也。

という概念を捨て、すっかり人間的にも丸くなった現在の俺から見ると、あの頃はとんがってたなあ…と苦笑してしまうのである。
何?今も変わってないって??
何だとぉー!俺のどこがとんがってんだよ!すっかり丸くなったじゃねえかよ!
おい、何か言えよこら!
俺はやさしいって言えよこら!!

…取り乱しました。反省。
でもね、一つだけ『編集』というか映画制作に関係することを書くとですね、 リーダーを名乗る人間は「カリスマ性」か「気迫」かどっちかは必要だと思うんですよね。
俺にはカリスマ性はありそうもないから、こうなったらもう「放っておいても一人で映画完成させちゃいそうな気迫」を出すしかなかったんですよね。
それが、いつもいつも眉間にしわ寄せてる監督、に見えてしまっただけなんですよね。
『編集』もそう。
実は映画制作の中でもっとも時間がかかる部分の一つで、しかも孤独な作業であるわけで。
リニア編集は一気に終えてしまわなければならない、と書いてきたけれど、ノンリニア(ディジタル)編集になっても実は変わらないのかもしれない。
最初にとりゃあああああぁぁぁぁぁぁー!!って始めてしまったらその勢いのまま終わりまで突っ走らなければいけない。
一旦ストップしちゃうとずぶずぶと怠惰の泉に沈んでいってしまうんです。

 さて。
以前のように電話が鳴っても親か勧誘だけ、という日々は終わり、電話も結構かかってくるようなすごい人に成長したのである。 それまで電話なんてあまり意味をなしていなかっただけに、俺は電話に凝り出した。つまり、留守電にいろいろな小ネタを吹き込んでおくようになったのである。せっかくかけてくれたのに、家にいなくて出れなかったら申し訳ない。
ただ、電話がかかってくるとうれしいが同時に、編集中の電話ほどやっかいで迷惑なものもなかったのである。  

 俺はいつもの様にテレビの前に陣取り、音楽やらビデオカメラやらといった映画の素材たちをコードにつなげ一所懸命、一心不乱、一極集中一触即発、弱肉強食で編集を行っている。
よおーし、もうちょっとで映画が完成だ。
リリリリリリリーン!
げ…
リリリリリリリーン!
あー、集中力が…
リリリリリリリーン!
今出れないんだよ!
リリリリリリリーン!
あー、もうダメだ。くそー!!おのれー!!!

ガチャ…
『もしもし(怒)』
『よー久しぶり!』
『ん(怒)』
『どうした?風邪か?』
『んん(怒)』
『なー、今度映画見に行かねーか?』
『いつでもいいよ。俺今忙し…』
『007の新作なんだよ。』
『あーあー、いつでもいいよ。また後で電…』
『今回のオープニング、予告で見たけどすげー…』
『また後でかけるよ!』
ガチャ!
あーもー、全部やり直しだよ!くそー!

(それから2時間経過…)

 俺はまたテレビの前に陣取り、音楽やらビデオカメラやらといった映画の素材たちをコードにつなげ千思万考、問答無用、再起不能、一日千秋で編集を行っている。
よおーし、もうちょっとで映画が完成だ。
ピンポーン!
げ…
ピンポーン!
あー、集中力が…
ピンポーン!
今出れないんだよ!
ピンポーン!
あー、もうダメだ。くそー!!おのれー!!!

ガチャ…
『(怒)』
『あ、どーも!○○新聞です。1ヶ月でいいんですけど…』
『結構です!!』
バタン!

 俺は編集前には電話線をひっこぬいてしまった。
これでよし!うっひっひ!ざまーみろ!
そして間もなく、苦労して吹き込んだ留守電が消えてしまったことを知る。  

 23歳の夏。俺は初めて友人たちを集めて1本のドラマを作った。
撮影の合間に仲間と居酒屋に入って飲めないクセに酒を飲んだ。
酒を飲んだら必ず、好きな女の人の話をした。

そんな日々だった。


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