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第六話:ドラマを作る(1)

撮影ができて音や音楽も入れられる。俺にはもう、映画を作るのにちゅうちょする理由がなくなっていた。
頭の中は新しいストーリーやハラハラするようなアクションシーンで溢れ返り、これをどうやって吐き出したものかと頭を抱えていた。
それまではずっと、人形をコマ撮りした映画ばかりだった。共演者は、もちろんこの俺である。

突然。
俺は大冒険活劇を作りたくなった。
どぉーしても、大冒険活劇を作りたくなった。
『インディ・ジョーンズ』みたいな大冒険活劇を作りたくなった。

しかし、俺の作る映画の舞台は必ず自分の部屋の中だった。
そして出演は俺一人。
まったくもってどうにもこうにも…なのだ。
でもそんなことくらいで収まる創作意欲ではない。

出演者=ハムスター
ストーリー=俺がハムスターの檻を開けた途端、ピンポーン。俺がいなくなった隙にハムスターは檻を抜け出す。来客者はただの勧誘で、俺はすぐに戻ってくる。ハムスターは間一髪でタンスの裏に逃げ込む。
探す俺。逃げるハムスター。
必死に隠れるハムスター!執拗に追いつめる魔の手、てゆうか俺の手!
テレビの下、服の中、ゴミ箱の裏、俺の背後…ハムスターは逃げ回り俺は探しまわる!
タイトル=『大脱走!』

…おお!大冒険活劇ではないか!
音楽はもちろん、『インディ・ジョーンズ』のテーマ曲を入れればいい。
すぐれた音楽を入れると映像も引き立ってくる、というのは経験的に分かっていた。
 俺は鼻息荒くペットショップでハムスターを購入し、撮影に入った。
これは大傑作ができるかもしれない…

 さて、俺は次の日大学の図書館に行った。
前の晩、撮影中にハムスターにほんとに逃げられてしまった傷心を癒すため、よく分からないが大学に行こう、と決めたのだ。
そして俺は、図書館に映画制作の本があることを知る。
ただ、それは8oフィルム関連の本だったが、そこには特撮に関する情報が満載だった。

 そこに書かれていた情報はしかし、ありとあらゆる”俺にはできない”手法が満載だった。
俺のもどかしさは日に日につのっていった。
そんな中でも、俺はビデオに施す特撮技術(?)をいくつかあみ出した。
編集からは少し離れるので簡単に紹介する。

□スロー映像/早送り映像
…ビデオカメラでスロー/早送り再生しながら、そのままビデオテープに録画していく。

□イラストのテレビに映像が映る
…大きなイラストを描き、テレビのモニタ部分をくり抜く。その後ろに、うまくあてはまるようにホンモノのテレビの映像を映す。

□画面に映った手書きの文字から、絵の具が滴り落ちる
…床に、たっぷり絵の具をしみ込ませた筆で文字を書き、それをそのままカメラと一緒に傾ける。すると絵の具がたら〜っと垂れていく。

 などなど、どれもたいした出来ではなかったが、それなりに試行錯誤が楽しかった。
ところでこれを書きながら、当時の俺に猛烈に話かけたくなってしまうのだ。
『今なら、PCで簡単にできちゃうよ、そういうの』と。
でもいいのだ。
愛おしいではないか。
当時の俺は自分の部屋の中だけで映画を作ろうと日々もがいていたのだ。
愛おしいではないか。
お金を一切使わず、ありとあらゆるものを自分の手で生み出そうとしていたのだ。
愛おしいではないか!
そうでも思わなければやってられないではないかっ!!


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