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第五話:音楽をつける

処女作を完成させた俺はもう止まらなかった。
ひんぱんに

になりながら次々と作品を作り続けていった。
一人で。

やがて黙っているのも耐えられなくなり、恐る恐る大学の友人に見せたところ思いのほか喜んで(?)くれた。なんだいいやつらじゃねえか、とほっと一安心。
観客も一人から二人、二人から三人と、なんと自分を合わせて4倍にも膨れ上がった。

ここで、こんな人もいるだろう。
「確かにリニア編集が大変そうなのは(文章じゃなくてイラストから)理解できた。でもじゃあノンリニア、つまりディジタル編集とはどこがどう違うんだ?」

おーし分かった。わしが教えちゃろう。
まずはリニア編集を図解するけん、見とれや。


次はノンリニア編集じゃ。今わしがやりょーるやつじゃ。


まあ、やっとる作業は結構似とんじゃ。ものすげー簡単に書くんなら、
・ノンリニア編集は、すべて自由自在。やり直しいくらでも可能♪
・リニア編集(ビデオ編集)はチャンスは一度キリ。一ケ所でも間違えたらもう、ぜーんぶ最初っからやり直し。


以上、リニア編集とノンリニア編集の違い&広島弁講座をお届けしました。

さて、立続けに企画を立て光よりも早くそれを行動に移していく。
寝食を忘れ、ついでに大学のことも忘れ去って、俺は映画づくりに没頭した。
ビデオカメラで撮影して、それらをビデオデッキでつなぎ合わせる。シンプルな編集だ。
処女作『復讐』は無声映画だった。
次の段階としては当然、音楽を入れたくなる。

当時俺は、映画作りと共に映画のキャラクター作りにも凝っていた。『ターミネーター』などのお気に入りのワンシーンを粘土で再現したりしていたのだ。(これまた暗えー!)
そこで、音声実験映画として、これらをビデオカメラで撮影し、その映画のサントラをかぶせるだけのものを作ろうと思い立った。

 さてどうするか。
CDとテープが一緒になったミニコンポがうちにあったが、お得意の赤白黄色の端子がない!(黄色=映像端子がないのは当たり前か) 考えた末、これまたビデオカメラで音をとって、入れる、という面倒な技をあみだした。

あっさり音楽を入れることに成功した俺は、次に「セリフを吹き込む」というワザに挑戦した。
ゴムで作った人形の口をぱくぱくさせた映像を撮り、そこに声をつけるのだ。
声は誰が吹き込むかって??俺に決まってンじゃないか(涙)。俺の作る作品の紹介を、そのゴムのモンスター司会者がしている、という設定である。(こんな人形→)

声を吹き込むのにはマイクを買えばいいと思うんだが、なぜかこの頃はそういった発想がなかった気がする。 とにかく機械音痴だったんだな。 どうしたかというと、音楽と同じようにビデオカメラで自分の声を撮り、それをつないで音を入れたのだ。
当時のうちの横には工場があり、しょっちゅう雑音が入っていた。 夜中にやるしかない。
俺は夜な夜な、電気を消した部屋で一人、ビデオカメラに向かって「うひひひひ…今日のお話は、実験に失敗して自分の家を燃やしてしまうバカな男の話じゃ。ひっひっひっひ…」などとしゃべり続けていたのである。
当時俺には、なぜか彼女はいなかった。

ところで当時、俺の部屋の隣りに意味ありげなおやじが一人で住んでいた。歳の頃は50か。単身赴任だったのだろうか。
ある夜、いつものように俺は「哀れよのう、哀れよのう…」と誰が本当に哀れかも考えず、新たなセリフを録音していた。部屋の電気は消して、机の蛍光灯だけがついている。そこに酔った女の怒鳴り声が聞こえてきた。
「ねえ、高橋さアん!出てきなさいよオー!」
隣のおやじの、慌てたしかし抑えた声が対応している。「帰れよ!」
女も負けてはいない。「何よオー!いれてよー」「静かにしろよ!周りに聞こえるじゃないか!」「いれてよー!大声出すよー!」「こら!静かに!」
俺はなんだか聞いてはいけない大人の世界に触れている気がして息を潜めていた。
「高橋さアん!!寝てあげたじゃない!出てきなさいよー!!」
ガチャ、とドアが開く音。
おやじが出てきた。足音。うちの前で音が止む。俺は息をとめた。おやじのひそひそ声が聞こえた。
「ほら、こいつ起きてるじゃないか!」
俺は慌てて首をすくめた。

あと「お前はほんとに哀れよのう…」という一言だけ収録すれば終わりだったのだが、その夜はそれで終わりにしたのだった。

その後もビデオカメラで音楽や声を撮るというのをくり返していたが、数年後MD録音機を購入。その不毛な 行為も幕を閉じる。


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