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第三話:最初はコマ撮り |
■俺には昔から「見切り発車」なところが多分にある。この性格は最近顕著になってきているのだが、この頃からその予兆はあったようだ。 自分の部屋にある機材を見て当時の俺は思った。 「すべて揃った♪」 さあ何を作ろう、と考えた。大学によく話す友人はいたが、映画のことを話すのはどうも恥ずかしかったのだ。映画を作る。そんなことをやろうとしている人間なんて聞いたことがなかった。 いーや違う、いや違う。 大学に入って最初に勧誘されたのが、何を隠そう「映画研究会」だったのだ。 田舎から出てきて右も左も上も下もコンビニもマクドナルドも知らなかった俺は、言われるがままに部員がいる机に連れていかれた。 学校のメインロードの両側にびっしりと各クラブ、サークルの机が並んでいたのだ。 桜が舞い散る中、俺はイスに座らされた。目の前には眼鏡をかけた男と、小太りの男が座っていた。俺の後ろは、先ほどの痩せた勧誘員が立っている。 「うちらはさ、みんなで映画作ってんだよ。女子大とコンパもあるしさ。女の子と映画作れるよ。」 馴れ馴れしく眼鏡は話しかけてきた。俺は次々と展開していく自分の状況がよく分かっておらず、ただぼーっとしていた。 「さ、住所と電話番号書いてよ」 俺が書いた住所を見たとたん、小太りが叫んだ。 「あ!天童さんと一緒じゃん!」 俺は小太りを見た。 「あのさー、うちらの部長と一緒のアパートじゃあ、逃げらんないよ」 後ろの痩せ男が俺の肩をぽんぽんと叩いた。その瞬間、俺は入部を止めた。 痩せ男も小太りも眼鏡も気に入らなかったが、なによりも彼らの「さーさー」言う言葉が、意味もなく俺を苛立たせていた。 今考えるに、お前らは惜しい人材を逃したのだ!やーいやーい! …というようなこともあり、ビデオカメラを持って外に出るのもはばかられたのだ。その「部長」が虎視眈々と俺を狙っているような気がして、もしビデオカメラを持った状態で出会おうものなら、 「あのさー、君ビデオカメラ持ってるじゃん、興味あるんじゃん、うちに入るべきだよ、さーさー入ろうよー、さーさーさーさー」 と「さーさー弁」で口説かれるような気がしていたのだ。 ■さあ何を作ろう、とまた考えた。 ・家の中で作る。 ・一人で作る。 この2点が条件だった。 結局、『復讐』というホラー映画を作ることにした。ストーリーはシンプルだ。 **** 俺が夜一人で針金で怪獣を作って遊んでいる。しかしやがて飽きてその針金怪獣をゴミ箱に捨てる。俺がテレビを見ている最中、その怪獣は生命を得てゴミ箱から這い出てくる。そして俺に後ろから近付き、襲いかかる! ラストで俺は風呂場まで逃げるが、2匹に増えた怪獣は俺の首に食らい付き、俺の首はぼちゃん、と風呂の中に落ち、ぷかぷか浮かぶ俺の顔でTHE END… **** いやー、暗いなあ。一人でこんなの作ってるやつは問題だよなあ。 俺は自分の顔の石こう型をとったりしながら、一週間でこの作品を完成させる。 そんなかんなで、撮影を続けているうちに20歳になった。 作品はコマ撮りという手法で撮影した。カメラで怪獣を1秒間ほど写し、カメラを止めて怪獣の形を少し変え、そしてまた1秒間程写す。これを延々とくり返すのだ。 終わった後、カメラを再生すると1秒毎にカッカッカッカッカッ…と動く怪獣が写し出される。 コマ撮りだけでは映画にはならず、当然のように俺は出演もした。カメラを置いて、その前で演技をするのだ。 …とまあ、撮影の話もたっぷり書けるが、これは編集の講座なので泣く泣く飛ばす。 撮影も終わり、編集に使う素材が全て揃ったところで機材を図のようにつないだ。 ビデオカメラの映像をビデオデッキに送り、同時にテレビにその映像を写し出し、確認。 それを適宜録画する。 ビデオテープに直接編集していく。これがリニア編集なのだ! |
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