■では、これまでお話ししてきた描き方をふまえ、「脚本を見て絵コンテにおこす」という作業を、例をあげてお見せしましょう。
まずは脚本です。
■河川敷/夕方<
二人、並んで座っている。一馬はうつむいている。
眞一、ソフトケースからギターを取り出す。
眞一「これをちょっと聞いてもらおうと思って…」
一馬「三味線ですか…?」
眞一、黙って弾き始める。やさしいメロディーが辺りに漂い始める。
一馬、ぼんやりと眞一の指先を見つめている。
ジョギングする人、犬の散歩をする人、肩寄せあう恋人達…
それぞれの影が長く伸びている。
弾き終わると、眞一恥ずかしそうに一馬の方を向く。
眞一「半年くらい前にこれ、…(一馬の視線を感じて)これ、ギターって言うんだけど、やり始めたばっかりだからあんまりうまくないけど…」
眞一、空を見上げる。
眞一「この曲をね、友だちが作ったんだけど、気に入ったから好きな人に聞かせてあげたくてね、こっそり練習してるんだよ。」
一馬「きれいな曲じゃのう…」
眞一「教えてあげるよ。もちろん僕もたいしたことないけど…」
一馬「それはありがたい!是非とも教えてくだされ!」
一馬、ギターを受け取るなり、真似して脇に抱え込んで弾いてみる。
ジャラジャラと意味のない音がする。
眞一「左手がこうでね…そう、右手は…」
日が暮れていく…
2001年度制作『ドリームウォーズ・ドリーム』より |
まずは脚本をじっくり読み込んで頭の中にイメージを作り出します。それが終わったら脚本をカット割りしてく。例えば私はこんな風に割りました。
【1】 |
■河川敷/夕方
二人、並んで座っている。一馬はうつむいている。 |
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【2】 |
眞一、ソフトケースからギターを取り出す。 |
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【3】 |
眞一「これをちょっと聞いてもらおうと思って…」
一馬「三味線ですか…?」
眞一、黙って弾き始める。 |
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【4】 |
やさしいメロディーが辺りに漂い始める。
ジョギングする人、犬の散歩をする人、肩寄せあう恋人達…
それぞれの影が長く伸びている。 |
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【5】 |
一馬、ぼんやりと眞一の指先を見つめている。 |
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【6】 |
弾き終わると、眞一恥ずかしそうに一馬の方を向く。
眞一「半年くらい前にこれ、…(一馬の視線を感じて)これ、ギターって言うんだけど、やり始めたばっかりだからあんまりうまくないけど…」
眞一、空を見上げる。 |
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【7】 |
<眞一「この曲をね、友だちが作ったんだけど、気に入ったから好きな人に聞かせてあげたくてね、こっそり練習してるんだよ。」
一馬「きれいな曲じゃのう…」
眞一「教えてあげるよ。もちろん僕もたいしたことないけど…」 |
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【8】 |
一馬「それはありがたい!是非とも教えてくだされ!」
一馬、ギターを受け取るなり、真似して脇に抱え込んで弾いてみる。
ジャラジャラと意味のない音がする。
眞一「左手がこうでね…そう、右手は…」 |
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【9】 |
日が暮れていく…
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このコマ割りに正解なんてありません。ここに『作家性』が出ます。何度も何度もこの作業をくり返して作品を作っていくことで自然と生み出されるものだと思います。
さて、次にこれらをそれぞれ絵コンテに描き変えていきます。尚、これらは私が誠心誠意込めて丁寧に描いたものですので、その隣にこの講座で説明してきた『○と+の絵コンテ方式』の絵コンテも併載しておきます。
【1】 |
■河川敷/夕方
二人、並んで座っている。一馬はうつむいている。 |
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【2】 |
眞一、ソフトケースからギターを取り出す。 |
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【3】 |
眞一「これをちょっと聞いてもらおうと思って…」
一馬「三味線ですか…?」
眞一、黙って弾き始める。 |
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【4】 |
やさしいメロディーが辺りに漂い始める。
ジョギングする人、犬の散歩をする人、肩寄せあう恋人達…
それぞれの影が長く伸びている。 |
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【5】 |
一馬、ぼんやりと眞一の指先を見つめている。 |
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【6】 |
弾き終わると、眞一恥ずかしそうに一馬の方を向く。
眞一「半年くらい前にこれ、…(一馬の視線を感じて)これ、ギターって言うんだけど、やり始めたばっかりだからあんまりうまくないけど…」
眞一、空を見上げる。 |
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【7】 |
眞一「この曲をね、友だちが作ったんだけど、気に入ったから好きな人に聞かせてあげたくてね、こっそり練習してるんだよ。」
一馬「きれいな曲じゃのう…」
眞一「教えてあげるよ。もちろん僕もたいしたことないけど…」 |
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【8】 |
一馬「それはありがたい!是非とも教えてくだされ!」
一馬、ギターを受け取るなり、真似して脇に抱え込んで弾いてみる。
ジャラジャラと意味のない音がする。
眞一「左手がこうでね…そう、右手は…」 |
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【9】> |
日が暮れていく…
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おそらく慣れてくると、これらの作業をすべて頭の中で完結させ、脚本を見ながらどんどん絵コンテに起こしていけるようになるはずです。絵が描ける描けないではなく、本を読んでどれだけ強烈に映像が頭に浮かぶか、が大事なんですね。
ところで上の絵コンテでは絵がない箇所が目につくと思います。これも説明しておきましょう。
まず【1】ですが、脚本ではシーンが変わる度にその場所がどこなのか、を説明するト書きがつきます。しかし映像では見ている方はそこがどこなのか、それまでの流れから分かっているわけです。この場合も私は場所の説明的な映像である【1】は省略しました。ギターのジッパーをジジジ…と開ける音で場面が切り替わる、という面白さも狙いました。
次は【7】ですね。ここは【6】から続く会話です。映像では二人の登場人物の顔が交互に映る。こんなのはわざわざ絵コンテにする必要がありません。【5】〜【6】をくり返す、などとどこかに書いておきましょう。絵コンテの目的はカットの構図・位置などをメモすることです。分かりきっているカットはコンテにする必要がないのです。
最後は【9】です。これは省いているのではありません。【8】の絵コンテをよく見て下さい。【8】の後にカメラはどんどん上を向き、空を映します。この部分が【9】なんですね。
次回もまた、例を挙げて説明します。 |