ホーム映画制作講座人をひきつけるワザ > 梅津直人


梅津直人

クリスマスの営業

クリスマスの営業だったんだけども、駅前にね、巨大なビルがどーんと立ってるわけですよ。
光り輝くね。
それはね、キャバクラ。

そこの一階でね「エルビスさんどーぞー」って紹介されてネタを一本やって。で、まあ20分くらい沸かして。「ありがとやんしたー」って。
あー、終わったよー、ってマネージャーさんに帰ろ帰ろって言ったら、こわもてのオーナーがやってきて、入り口に立ちはだかってさ、

「も一回やってくんねーかな。上乗せすっから」って。

で、「どうする?」「またネタ考えないといけねーじゃん」って相談して。
ネタはたくさんあるんだけど、営業用のネタ考えないといけないからね。
お客さんを楽しませるネタ。コントのネタとは違うんですよ。

コントっていうのは自分達の世界を見せるっていう。営業って言うのはお客さんと一緒に楽しむもの。

だから、お客さんを置いてけない。
コントの場合だったら、つまんなそうな顔してても続ければいいの。 俺らのコントについてこい、っていうのが、コント。
でも営業って言うのは、お客さんと握手する。どう、面白いでしょ?って一緒に楽しむ。 これ大きな違い。

コントがめちゃくちゃうまいグループでも、営業は難しい。
で、営業ができるからといって、コントが面白いとは限らない。
これが、営業芸人とコントグループに分かれて行く道なんですけど、営業芸人になって行くと、コント自体の質は落ちて行く。ネタから外れて行く、はずれすぎちゃっていくと、営業芸人になっちゃう。
もう戻れない。ひとつの道を走れなくなっちゃう。脱線脱線になっちゃう。
あ、話が脱線しましたね。

そんで「また一階でやるの?」って聞いたら、

いや2階に来てくれ、って。

じゃいいっすよ。お客さんも変わるんだろ、って。
じゃあ10分後にスタンバイお願いします。
早えーな、おい。
いいか、この格好だから。行くぞーって。

チャララッチャッチャー♪クリスマスイベントー!
またさっきと同じ音楽が流れて。裏でカーテン操作してる女の子もおんなじなんだよね。
「あ、さっきはお疲れさんでしたー」って言ったら「あ〜お疲れ様でしたぁ〜」って。
「2回目だから、音楽変えてくれればいいのにー」とか言ってたら幕開いて、

そしたら1階のお客さんがそのまんま2階に上がってきてんの。

冗談じゃネえよーみたいなね。
なんだよー、同じネタかよーみたいな声が会場から来て。

同じもクソもあるかよ、とりあえず聞け、みたいな。

で、とりあえず終わって。 「さっき見たよー」っていう罵声浴びながら。
とりあえず15分くらいで終わっちゃって。だって余計なアドリブなんかまで同じなんだから。もう余計なことしないでいいよ、なんて言われて。

で終わってお疲れさんでしたー、って。またマネージャーと「今年もまた終わったねーお疲れねー」なんて話してたらこわもてマネージャーがまたやってきて、

「も一回やってくれ」って。「ギャラ上げるから」。

「どうする?」って俺らに聞かれて。
「じゃあもう、2回も3回もおんなじだから、もう何にも怖くない」って言って。

「今度は3階で」

みんなで階段で3階に行くの。
チャララッチャッチャー♪クリスマスイベントー!

幕が開いたら、さっき2階にいた客がそのまんま全部3階に上がってきてんの。

みんな酔っぱらってんだよね。
キャバクラ嬢もだんだん服装が薄くなって行くの。置いてあるボトルも若干高くなってるの。 上に行けば行くほど酔わされて金をとっていくわけ。

で、3階終わって4回目。
だんだんパターン分かってきて、「あー次4階ですねー」って。

最終の階で。
で、同じように出てったらお客さんベロベロで、「さっき見たよこのやろー」って言われて。
で客に「じゃあやってみろー」って、お客さんにやらして、俺ら会場で飲んで、お客さんレスキュー隊のコントやって、俺ら笑って、違うだろーって突っ込み入れて、

それでギャラが3000円くらいあがったかな。

いやなクリスマスだったね、ほんと。

(イラストは、イメージです)


(※)梅津直人さんはエルビスというお笑いグループを組んで活動中。

Copyright © Since 2001 映画工房カルフのように All rights reserved.
ホーム映画制作講座人をひきつけるワザ > 梅津直人