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【わたしをつむぐもの】(決定稿)
キャスト

葵・あおい(20)…シンガー志望の女の子

渉・わたる(23)…葵の先輩

榊・さかき(30)…プロデューサー


*****

■1 川原の土手・日中
 空の映像。葵の歌声が被って流れる。
 ガチャリとウォークマンを切る音。
 葵の声、止まって。葵が寝転んで名刺を眺めている。
 側にウォークマンとスコア。
「あーあ…(とため息)」

■2 川原の土手・夕方(回想)
 川原で葵が歌っている。土手の上に榊。
「いい声だね。いつもここで歌ってるの?」
 葵、驚いて振り向く。
× × ×
 榊の手、名刺を手渡す。『プロデューサー』の文字。
榊の声「その曲、うちに預けてみてくれないかな」
 葵、受け取るが戸惑った表情。

■3 川原の土手・日中(回想戻って)
 葵、ガバッと起き上がり携帯を出す。携帯画面『ワタル』。葵、電話をかける。
 携帯を耳に当てた葵、思案顔。

■4 川原の土手・夕方(回想)
 土手に並んで座る渉と葵。渉の手にジュースの缶。渉、スコアとテープを手渡して。
「ほらこれ。おまえずっと歌やりたいって言ってただろ?」
「渉くんが?」
「そ。今までは遊び半分って感じだったけど、これはけっこう本気で書いたから」
 と、渉、スコアを見ながらフレーズを口ずさむ。
「こんな感じかな。で、いつかさ」
「いつか?」
「俺が作った曲、葵が歌って、みんなに聞いてもらえたらいいなって。しばらくは無理だけど」
「なんで…?」
「就職とか、いろいろな」
「そっか」
 渉、立ち上がりながら。
「じゃ、俺そろそろ行くわ。葵はまだここにいる?」
「あ、うん」
「じゃあこれ。後飲んじゃって」
 と、渉、ジュースの缶を手渡す。葵、受け取ってぎゅっと缶を握り締める。
 渉、歩いて行きかけるが振り向いて
「さっきのやつ、歌詞おまえつけろよ。いろいろ落ちついたらまた連絡するから」
「(笑顔で頷いて)うん。じゃあやってみる」
 渉、川原を歩いて行く。
 葵、見送りながらそっと缶に口を付ける。

■5 葵の部屋(イメージ)
 棚に置いてあるジュースの缶。『初間接キス記念』と書いてある。

■6 川原の土手・日中(回想戻って)
 携帯を耳に当てた葵。
「…あ、もしもし? 渉くん?」
渉の声「ごめん、今忙しいから……」
 と、電話が切れる。
「…ってちょっと…」

■7 葵の部屋(イメージ)
 棚に置いた缶が床に落ちる。

■8 川原の土手・日中
 携帯を握って考え込む葵。思い直してメールを打ち始める。
「そんなに忙しいのかぁ…」
 携帯画面『宛先・ワタル メッセージ・忙しいのにごめん。連絡待ってます』の文字。
 そっと送信ボタンを押す葵。

■9 川原の付近の道路・路上・夕方
 川原から歩いて来る葵。傍らにジュースの自販機。
「エネルギーチャージ!」
 と葵、ボタンを押し、出て来たジュースを手に取る。…と、メールの着信音。
 葵、ハッとして携帯を取り出す。
 液晶画面『発信元・渉』
「(独り言で)…あ、渉くん?」
 葵、メールを読み始めるが、表情が曇る。
「……え?」
 液晶画面『メッセージ・死ぬほど忙しくて曲どころじゃない感じ。ごめん』
 うつむいた葵の横顔。

■10 葵の部屋(イメージ)
 葵の手が落ちた缶を拾う。

■11 川原の土手・日中
 記念の缶を持った葵。川に向かって投げる。
「渉のバカーッ!」

■12 川原・水辺(イメージ)
 川の中を流れて行く缶。

■13 川原の土手・日中
 歌っている葵。携帯が鳴る。葵、出て
「はい?」
榊の声「ああ、こないだはどうも。あの曲、うちで売り出すことになりそうだよ」
「はぁ…」
 考え込んだ葵の横顔。

■14 川原・水際(イメージ)
葵の缶、水際に漂っている。

■15 川原の土手・夕方
 川原に座り込んでいる葵。後ろを渉が通りかかる。
「(気づいて)渉くん!」
 立ち止まる渉。戸惑った顔。
「(スコアを出して)あのね、これに歌詞、付けたの。それでね……」
「あのさ、悪いけどまだ仕事の途中で、これから打ち合わせ、あるから」
「…え?」
 渉、去る。後姿を見送る葵。

■16 川原・午後(イメージ)
 川原に打ち上げられた缶、踏まれて潰れる。

■17 川原付近の路上・夕方
 うつむいて歩く葵、ふと立ち止まる。傍らにジュースの自販機。ジュースと缶コーヒーがある。葵、指先がためらが、缶コーヒーを買い、握り締めて歩き出す。

■18 川原の土手・夕方
渉が浮かない顔で歩いている。足元を見てため息。ふと立ち止まる。

■19 川原の土手・夕方(回想)
 普段着の渉、スコアを差出して照れたように笑う。

■20 川原の土手・夕方(回想戻って)
 渉の視線の先にジュースの缶。渉、気づいて近づいて行く。

■21 川原の土手・夕方(回想)
葵と並んで座る渉。楽しそうな顔。
「俺が作った曲、葵が歌って、みんなに聞いてもらえたらいいなって…」
傍らにジュースの缶。

■22 川原の土手・夕方(回想戻って)
 渉の足元に葵の缶。渉、携帯を取り出して見る。携帯画面『差出人・あおい メッセージ・忙しいのにごめん。連絡待ってます』の文字。
 渉、携帯を閉じ、缶を拾う。葵のいたあたりを振り向くが、葵の姿はない。

■23 川原付近の道路・夕方
 缶コーヒーを手に歩いている葵。携帯が鳴り、葵、出る。
「もしもし…あ、はい。そうですけど」
榊の声「いろいろ検討したんだけど、やっぱり最初はうちの新人にね。そうでなかったらこの話は…」
「そんな…」
 うつむいた葵。

■24 川原の土手・日中
 土手に座っている葵。傍らに譜面とウォークマン。
「(膝を抱えて)もう…やめよっかな…」
 近づいて来る足元。葵の前に立つ。
 葵、気づいて顔を上げる。普段着の渉が立っている。
 渉、傷だらけの缶を差出す。
「ここにいると思ったから。歌詞、つけたやつ、聞かしてよ。そしたら俺、また…」
 葵、頷いて缶を受け取って立ちあがる。
「それと、これ…」
 渉の手に新しいジュースの缶。
 葵の手が受け取り、ウォークマンのボタンを押す。渉の曲、流れて。

■25 葵の部屋・午後
 傷だらけの缶と新しい缶が並んでいる。
 新しい缶に『初××記念』の文字。

■26 川原の土手・夕方
 川原に立つ二人のシルエット。
 渉の曲が流れる。

【 完 】
(本文十枚・約六分)
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