１０：FILM SET　撮影現場

“ Hello, my name is Hideyuki Suzuki.
Thank you for inviting me today.
I was really looking forward to seeing you.”

車内から外を眺めると、まだ日は昇っておらず暗かった。
マークが運転する横で、僕はノートに書いた英文を心の中で繰り返し練習をしていた。

２週間前、なんとマークが撮影現場に誘ってくれたのだ。
そして機会があれば、プロデューサーを紹介してくれるとの事。
失礼がないようにと思って、その日から、挨拶と自己紹介を勉強した。


生まれて初めての撮影は、“ Kingscross ”という日本でいうと新宿の歌舞伎町のような所で、
そこにあるすごく大きなクラブハウスを貸し切り、アメリカから来たミュージシャンのミュージックビデオだった。

憧れだった撮影現場は、僕の期待以上に素敵な空間だった。
フィルムカメラ、大きな照明、様々な衣装など、そしてなんと言ってもここは異国の地である。



そんな見学気分だった僕に、なんと仕事があった。

Personal Assistant 略して「PA」 が僕の役職で、名前はかっこいいが簡単にいうとADのパシリである。
そして最初の仕事は、朝ご飯を食べる事だった。

オーストラリアの撮影での食事は、ビッフェ（バイキング）スタイルが主で、とにかくすべてがビックサイズだった。
食事が置かれたテーブルにどんどん人が集まってきた。
その時、改めて外国にいるのだと実感した。海外へ来て感じた事は、
積極的にならないと現地の人達と触れ合う機会は、少ないという事。

今、こうして沢山の外国の方に囲まれているが、一歩踏み出して自分から声をかける事はできなかった。
ただ皆が楽しそうに話しているのを隅の方で見ている事しかできなかった。

「海の向こうで映画を作る」という目標の大きさを感じた。