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初めて捕まる

 映画を作るのに、最初に使ったカメラはおじいちゃんにもらったものだったんですよ。
で、それが壊れてしまった。
友人の親に借りたりして映画を作ってたんですが、それも気が引けて。
社会人になったのをきっかけに、生まれて初めて、自分のお金で買いましたよ、デジタルビデオカメラ。
もううれしくてうれしくて。
家に帰る度にカメラを取り出して眺めて、寝る前に撫でて。

そんなかわいい我が子もついに外に連れ出す日が来たんですよね。
準備していた短篇映画の詳細を書いたチラシをわざわざ作って、そこに新しいビデオカメラのことも書いてみんなに配ったわけです。
当日、スタッフもにやにやしながら僕に言いました。「見せたくて見せたくて仕方ないんでしょ!」。
ウルセーヤ、と言いながらも顔がにやける。

集まったキャストやスタッフを連れ、僕らは新宿駅近くの場所に向かいました。
新しく鋪装された場所で、ロケーションと言い景色と言い申し分ない。
前もって一人でロケハンをして撮影場所に決めていたんですよ。

着きました。
「ここで撮影やります。」
 僕はしゃがんで、カメラバッグを地面に置きました。
みなは上から覗き込む形で僕の手元を見ています。が、僕はそんなことは気にならないわけです。
だっていよいよ、カメラのお披露目なんですから。
バッグのチャックをジジジ…と開けます。
銀色の宝物が見えてきます。
ふふふふ。
僕はうやうやしく、カメラをそっと取り出しました。
そして何か言おうと顔を上げた瞬間、

「そこ、何やってるんですか!」

カルフの一代目のカメラは、この時からすでに呪われてたのかもしれません。


当時は、よく新宿をロケ地にしていました。
みんなが電車一本で集れたんですよね。
その時もまた新宿で作品を作ろうと、一人でロケハンしてました。
すると、階段がクネクネしていて絵になる場所を発見。
ふらふら〜と近付いて、テスト撮影を始めちゃったんです。

「ちょっと…」
 突然後ろから声がして、振り向くと警備員が立っています。
「何してんの?」
 口調は丁寧でも、顔はムッとしてるんです。
 あーあ、また捕まっちまったよ…
「あ、いえ、その、」
 と、モゴモゴ言いながらカメラを下げて歩き去りました。
僕がちゃんと立ち去るまで、やつはそこに立って見てるんですよ、くそー!


いざ撮影しよう、と辺りを見回すと、結構いるんですよ、やつらが。
たいてい青か紺の上下を着てます。
一人ロケハンの結果、警備員がいなかった場所を見つけました。
で、みんなを集めてぞろぞろとロケ地に向かいます。

役者さんをセッティングして、セリフの確認をして、さあ撮影だ、とカメラを持ち上げた瞬間、
「そこ、許可を取ってますか?」

何なんですかね。
どうせ声かけるんならもっと早く言ってくれっつー話ですよ。
こっちがカメラを取り出した途端に狙ったように声をかけてくんじゃねーよっつー話ですよ。
やつらはあれですか、『現行犯』じゃなきゃ逮捕できない、とかそんな感じなんでしょうか。

テレビ番組なんかで、痴漢を取り締まる鉄道警察が、
「−あいつ怪しい」
と目を付けておきながら、実際に被害が出るまで見張り、手を出した瞬間にそれ!と追いかける。
そんな感じなんでしょうか。

「ー先輩、怪しい集団を発見しました!」
「ーん?ああ」
「ー先輩、御存じなんですか?」
「ーいや、いるんだよ、映画サークルみたいな連中が」
「ー追っ払いましょうか!」
「−まあ、もうちょっと待ちなさい」
「ーし、しかし!」
「ー面白い方法がある。ほら、機材を取り出し始めただろ」
「ーはい」
「ーあいつらがあれを全部取り出して、セッティング終わらせてから無茶苦茶にしてやるんだよ」
「ーなるほど!」
「ーセッティング終わったみたいだな」
「ーたいしたことない機材ですからすぐですね。よし、とっちめてやる!」
「ー待て」
「ーしかし!」
「ーほら、監督みたいなやつがいるだろ、あの偉そうにふるまってるやつ」
「ーあれが監督ですか…」
「ーあーあー、演出みたいなこと始めたぜ、ほら」
「ーなんか指導してますね。偉そーに」
「ーお、演出が終わったみたいだぞ、カメラマンに指示だしてる。そろそろだ」
「ー大声で叱ってやりますね!」
「ー違う、後ろからそっと近付いてやれ。で、撮影が始まった瞬間に止めてやるんだ!」

あー、書いててむかついてきた!

[警備員の行動パターン]

  1. 丁寧な口調で話しやがる
  2. そのくせごう慢な態度をとりやがる
  3. しかも後ろから唐突に声をかけてきやがる

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